給料が2%上がった。しかし物価は4%上がった。数字だけを見れば「給料が増えた」と喜びたくなるが、買えるものは実質的に2%減っている。インフレや金利のニュースを読むとき、不動産投資家にも同じ落とし穴がある。本記事では、見た目の増減に惑わされず、実質的な手残りで考える重要性を整理する。
◆1.どちらが良い?
いきなりだが、質問である。
A.インフレ率4%のなか、給料が2%上がった
B.インフレ率0%のなか、給料が2%下がった
どちらが良いだろうか。実質的にはどちらも2%の給料下落なので、結果は変わらないはずである。
ところが、多くの人は給料上昇を喜び、給料下落を嘆く傾向にあるという。結果が同じでも、人は損失を嫌い、見た目の利益を好むからである。

◆2.とある会社での実験
この傾向を確かめるため、行動経済学者がある会社で実験を行った。出典はダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』である。
従業員を二つに分け、Aグループにはインフレ率0%のなかで7%の賃下げ、Bグループにはインフレ率12%のなかで5%の賃上げを告知した。
どちらも実質所得の変化は同じである。それでもAグループでは62%が「不当だ」と考えた一方、Bグループで不当だと考えた人は22%にとどまったという。見た目の賃上げ・賃下げが、受け止め方を大きく変えたのである。
◆3.実験結果から分かること
人間は、絶対的な数字よりも変化や差異で判断しやすい。同じ10度の川の水でも、極寒の冬には温かく感じ、真夏には冷たく感じるのと同じである。
この原則は富、名声、健康などにも当てはまる。インフレ下では、資産価格や給料が上がっていても、購買力や実質収支が悪化している可能性がある。私たち不動産投資家は「増えた」という数字だけでなく、何と比べて増えたのかを見る必要がある。
◆4.値上げラッシュ
昨年、息子の通うサッカースクールの月謝が8800円から1万1000円へ上がった。値上げ後、昔から通っていた子を含め、何人かがスクールを辞めた。
一方、妻からは「毎月、家族のお財布に入れているお金を増やしてほしい」と言われた。プロスペクト理論が身に染みる出来事であった。
大家にも同じ難しさがある。修繕費、保険料、金利、生活費が上がっても、長く住んでくれている入居者の家賃は簡単には上げにくい。資産価格が上がっていても、返済後キャッシュフローが減っていないかを確かめる必要がある。

◆5.2024年1月の日銀決定と現在
原文を書いた2024年1月23日、日本銀行はマイナス金利と大規模な金融緩和の維持を決めた。当時、メインバンクの支店長から「金利は上げられないですよ」と聞いたことも思い出した。
ただし、これは当時の記録である。その後、日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除した。金融政策は変化するため、投資判断では日本銀行の金融政策決定会合(公式)で最新情報を確認していただきたい。
不動産投資家が見るべきなのは、名目金利だけではない。物価を考慮した実質金利、修繕費を引いた実質家賃収入、返済後キャッシュフロー、金利上昇が出口価格へ及ぼす影響である。
プロスペクト理論に惑わされず、相対的な数字だけでなく、自分の生活と投資に残る実質的な価値を見ていきたい。
◆6.編集後記
当時、金融緩和が続けば株価が上がる可能性がある一方、円安によって円の価値が下がることも考えた。株で利益が出ても、それ以上に購買力が落ちれば、実質的な豊かさは増えていない。
政策の方向を断定するのではなく、数字の背景を確かめ、自分の手残りと暮らしにどう影響するかを継続して見ていきたい。
◆7.インフレ・金利と不動産投資のFAQ
Q1.物件価格が上がれば、資産が増えたと言えるのか?
名目価格だけでは判断できない。物価、売却費、税金、借入残高を考慮し、実質的な純資産が増えたかを見る必要がある。
Q2.金利上昇時に最初に確認する数字は?
返済額だけでなく、返済後キャッシュフローと返済比率を確認する。修繕費や空室率も厳しめに置き、金利上昇後も運営を継続できるかを試算する。
Q3.家賃を上げればインフレに対応できるのか?
市場家賃や契約条件、入居者との関係を踏まえる必要があり、経費上昇分をそのまま転嫁できるとは限らない。更新や募集の機会に、設備・サービスと合わせて検討する。
インフレと金利を実質で読むA4レポート

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