※この記事は実際の不動産体験をもとにしていますが、多少アレンジした「フィクション」として楽しんで頂けると幸いです。 |
◆利回り115%の競売物件の概要
ついに出会ってしまった300万円以下で出ていた競売物件。なぜかこれが自分の運命の物件だと感じた。焦る気持ちを抑えながら、さっそく物件明細書をダウンロードして、恐る恐る読み込んでいくと・・・
場所は茨城県日立市。建物は築29年の鉄筋コンクリート造。4階建て合計7戸の小ぶりな1棟マンションだ。延床面積は200平米、土地の広さは約117平方メートルとなっている。
入居状況は7戸中5戸が入居。1部屋当たり4.5万円の家賃で、現入居者からの家賃収入だけでも月22.3万円。年間267万円もの家賃収入を得られることになる。
もし仮に買受可能価額233万円で落札できたなら、表面利回り115%と恐ろしい数字になる。一年経たずに元が取れてしまう計算だ。
毎月23万円の家賃収入。満室になれば・・・
◆不思議な間取り
さらに物件明細書を読み込んでいくと、間取り図と物件の写真のページが目に止まった。風呂トイレが別で部屋がわりと広い。また、階段を挟んで全室角部屋のような造りになっているのも良ポイントだ。
一方で、間取り図には?がいっぱいだった。なんだこれは???1階に201号室と101号室があり、201号室というのは2階にあるものばかりだと思っていたので、パッと見たときに頭が混乱した。
しかも、よく分からない不思議な間取りだ。201号室、202号室、203号室のお風呂とトイレの位置関係がおかしい。入り口がどうなっているのかも良く分からない。風呂トイレ一緒なのだろうか?どうやって入るんだろうか?
えっ!?一階なのに201号室?どうゆこと???
お風呂とトイレはどうなってるの?
◆期限後の更新は買受人に対抗できる?
さらに、何度も何度も物件明細書を読み直しをする。見慣れない一文に目が止まった。
現入居者との契約内容の書かれている「買受人が負担することとなる他人の権利」欄だ。聞いたことの無い文言でよく理解ができない。うん?最先の賃借権?どういう意味だ???いったん赤線でチェックをしておいて、後で調べることにした。
「上記賃借権は最先の賃借権である。期限後の更新は買受人に対抗できる。」 |
さらに読み進めていくと、物件明細書の中でも、特に重要な欄「関係人の陳述等」と「執行官の意見」があった。ここはとても重要だ。
勉強した競売の本には、この欄には、住んでいる人や所有者の人間性、簡単に引き渡しを受けられるか、ややこしい問題が無いか、といった重要な事が書かれているから、要チェックな個所とされている。じっくり読むことにした。
回答をしている入居者は、昭和53年の新築当時からずっと住んでいる人達のようだ。わりと丁寧に回答していて、ややこしそうな入居者はいなそうな感じだ。
ただ、どの入居者も賃貸借契約書を紛失しており、どんな人が住んでいるのか?、何年更新なのか?、預かっている敷金はあるのか?いくらなのか?、それ以上の事が一切分からない。執行官のコメントも特に役立ちそうなものは無かった。
◆買うことで頭がいっぱい
物件明細書からは読み解け無いこともいっぱいあったが、「この物件をどうやって落札するか?」「いくらで入札するか?」と買うことで頭がいっぱいだった。自分は運命の物件に導かれたと信じて疑わなかった。
わたしは胸躍る気持ちを抑えて、週末に現地を見に行くことにした。初めての物件調査にドキドキしながら・・・。
(第8話につづく)
◆編集後記
当時、この物件を運命の物件だと信じて疑いませんでしたが、今の自分だったら果たして手を出せるかどうか・・・。入札を検討するとは思いますが、現地調査に行ったら、恐らく入札を踏みとどまったと思います。
この競売物件、今だったら手を出せないかもしれません・・・
「ビギナーズラック」という言葉があります。辞書には、「かけ事などで,初心者が往々にして得る幸運。」とありますが、まさに当時の私はそれだったのかもしれません。
幼い子供を見ていてすごく驚かされることがあります。特に1歳になったばかりの次男は、ありえないところからジャンプしようとしたり、突然でんぐり返しをしたりします。子供(初心者)は、過去の経験に邪魔されることがなく、あれこれ考えを巡らすことがないため、思い切った行動に出ることができるのでしょう。
良く分からないまま恐ろしい行動をしてしまうこともあるのですが、リスクを考えずにいろいろと挑戦できるという見方もできます。経験者や大人は、経験があり分析もできるのですが、それゆえに初心者のようなチャレンジができなくなっていることが良くあります。
勉強し過ぎて一棟目がなかなか買えないという人が意外と多いのもうなずけます。一度、子供の頃のような無邪気な心を持って、いろいろと挑戦してみることも大切だなと感じている次第です。